オルフェウス
解説者紹介
「お前は……! セリーナ=アヴァロンだと? あの時、確実に殺したものと思っていたが」
「あら。こんなところに迷い込んできたのが貴方だなんて。懐かしい顔ね。……いえ、ついこの間、顔を合わせたかしら」
「む、ここは……?」
セリーナ=アヴァロン
かつてEGG幹部のネオプラズムとして、世界経済を混乱に陥れたエルフです。
TNFによって倒され、作中では故人となっています。
イラスト:とび様
ユージン=マクマホン
現在のTNF代表です。
ネオプラズムの活動が急激に増加する中、TNF代表という困難を引き受けました。
しかし、その直後に娘アリスがEGG幹部であることが発覚しました。
イラスト:MACCO様
オルフェウスの住人
「残念、私はここで生きているわ。でもご安心なさい、私は貴方たちが住む世界には、もう何も干渉はできないわ。そうね。私は生きているのではなく、ここで死に続けていると言うべきなのかしら」
「ふむ。確かに、あの頃の威圧感は、今のお前からは感じないな。害がないのであれば、もう一度殺そうとは思わん。ただ、私はどうして此処にいる? まだ死んだ覚えはないのだがな」
「貴方の役目は、オルフェウスという世界について伝えることよ。その意味では、私も同じ。貴方は、まだ自分が生きているつもりなのかも知れないけれど、ここにいる限りは死んだのと変わらないわね。……どうやら、私が死んでから、貴方がTNFの代表になっているようだけれど、このまま行方不明になってしまったら、どんな混乱が起こるかしらね。ふふっ」
「大人しそうにしてはいても、その薄気味悪い話し方は昔と変わらんな。だが、理屈はさておき、私がここで何かの役目を果たさなければならないのは分かった。それで、どうすれば良い?」
「あなたも、過程を楽しまず結論に飛びついてしまうところは相変わらずね。いえ、昔よりも性急になっているかしら。……そんな風に睨まないで。これ以上、焦らすつもりはないわ。……ここからは、あなたは極めて常識的な問いに、出来る限り簡潔に答えてくれれば良いわ。ええ、どうせなら、少し謎めいた回答なら面白いわ」
「本当に回りくどいな。いや、お前の目的や意図なんぞ、考えるだけ無駄だったな……少し、思い出してきたよ。質問とやらには答えてやるさ。それで、お前と顔を合わせずに済むようになるならな」
「あらあら、やっぱり私は嫌われているのね。私は、貴方のことは結構好きなのだけれど。では、これから質問をするから、その答えで私を楽しませてちょうだい。まず最初の、最も簡単な質問ね。いえ、最も難しいかも知れないわね。あなたたちが住んでいる世界、私がかつて住んでいた世界。その世界の名前は?」
「世界……という言い回しは少し違和感があるが、オルフェウスだな。私たちが、そのように呼んでいる惑星だ」
「面白味のない答え方ね。ええ、それでいいのよ。続けるわね。オルフェウスには、誰が住んでいるのかしら」
「また、酷く曖昧だな。私のような人間も住んでいるし、お前のようなエルフも住んでいる。動物も、草木も、多種多様な生き物が住んでいるのが惑星オルフェウスだ。もっとも、お前たちネオプラズムは、それを壊そうとしているがな」
「壊そうとしているのではないわ。ただ、歪めただけなのよ。歪めたら、壊れてしまったの。けれど、私には壊せなかったわね、あれ以上には。さて、あなたは動物や草木と言ったけれど、もう少し別の区分もあることは覚えているでしょう? それとも、そんなことも忘れてしまったのかしら」
「私たち人間の立場で言えば、普通の動植物と、お前のような精霊と呼ばれる種に大別できるな。もっとも、最近では両者を区別するのはあまり意味が無いなどと言う学者もいるらしいが」
「本質的には区別する意味はないのかも知れないわ。けれど、この場合はその本質にこそ意味が無いのよ。オルフェウスには多種多様な種族が住んでいるでしょう? 人間と精霊という、簡潔な区分すら許されないなら、各々のアイデンティティを見出すのは、より困難になるでしょうね。それとも、全てを別の個と見なして、種族や民族の垣根さえ壊せれば満足なのかしら」
「お前らしからぬ言い方だな。だが、言いたいことは理解できる。人間と一口に言っても、実際には小人や巨人、獣人、屍人、樹人といった、多くの種族に分かれているし、それとは別に人種や民族の区分がある。精霊にも、エルフやドヴェルク、ニンフェ、ゴブリンといった妖精もいれば、魔獣や鬼、仙人と、その区分は人間以上に複雑だ。その意味では、学術的に意味があろうがなかろうが、人間と精霊という区分は、今後も残るのだろうな」
「ええ、良い答えね。貴方らしからぬ回りくどい言い方で。それでも、貴方らしく結論は明確で。けれど、まだ少し不足しているわよ」
「人間と精霊以外ということなら、人工生命体という別の区分もある。かつてはゴーレムが主流だったが、今ではホムンクルスやAI知性体、あるいは機人の方が目立つようになってきたな。もっとも、大多数は人権を持っていない。彼らのどこからどこまでを生命と見なすかは、社会的には難しい問題だ」
「私が死んでから15年以上経っているはずだけれど、まだ彼らの人権について議論を続けているのね。そうよね。たった15年では、物事はほとんど進まないわ。……さて、第一関門はこの辺りね。次は、オルフェウスの文明や文化について、貴方の言葉で聞かせてもらうわ」
「ふむ。良いだろう」
文明と文化
「もっとも、オルフェウスの文明、あるいは文化について、簡単に説明するのは難しいわよね。まずは、それらの基礎になっている学問の分野について、説明してもらえる?」
「その手の話は、あまり得意ではないのだがな。私のような凡人の認識では、例えば、文学や語学、歴史学、地理学、経済学、法学、哲学、数学、物理学、現象理学、化学、生物学、医学、などの分野があるといったところか。これについては、もっと別の区分も当然あるのだろうが、全てを挙げられる自信はないな」
「そうね。まだまだ考古学や地質学、薬学、心理学……その気になれば、いくらでも細分化できそうね。けれど、貴方の回答で充分よ。ここでは現象理学について、もう少し掘り下げて説明してもらおうかしら」
「現象理学か……。TNFの代表として、これを言っても良いものかは分からんが、私には専門的な話は難しすぎるよ。義務教育レベルで良いのであれば、この世界を2つの側面から見て、それぞれのエネルギーのやり取りを包括して扱う学問体系、といった説明になるか。個人的には、物理学の一分野のように捉えている」
「この世界を2つの側面から見る……現象理学については、表面だけなら中学校のカリキュラムにもなっているぐらいだから、その辺りの認識は一般的ね。もっとも、その程度の認識では、却って本質への理解から遠ざかるわ。もう少し掘り下げるなら、あなたたち人間が見ている側面を元界(げんかい)、それとは別に精霊が見ている側面を函界(かんかい)と呼んでいるわね。これもまた、実に表層的な区分に過ぎないのだけれど」
「その元界と函界の違いについても、正確に理解するのは難しいと思うがね。昔であれば、函界というのは、魔法使いが見ていたマナの流れとかそういった物だろう。今は、元界と函界という区分すらも、便宜的な概念に過ぎないとは習った覚えがある。しかし、いかんな。色々と経験は積んできたつもりだが、この辺りのこととなると、恐らく私は普通の中学生ほどにも理解していないかも知れない」
「大抵の大人は、そんなものでしょう。私のように暇を持て余していたなら、少しは違ったのでしょうけれど。とにかく、この世界の現象は、厳密には元界と函界の相互作用によって成り立っているわね。細かい理屈はさておき、この事実が明らかになってから、社会は飛躍的な進歩を遂げたはずよ。ええ、まだまだ、これからも進歩し続けるのでしょうね」
「おっと。元々は文明や文化の話をするんだったな。確かに、お前の言う通りなのだろう。普段はあまり意識しないが、日常的に使っている電化製品にせよ、テレポーテーションやサイフィーリングにせよ、現象理学の発展がなければ成り立っていないわけだからな」
「サイフィーリング……ああ、PSYTECはあれを完成させたのね。まだまだ時間がかかると思っていたわ。まあ、その話は今は良いでしょう。貴方の言う通り、かつては魔術師や一部の神々、仙人たちの専売特許であった技術は、現象理学を含む学問の発展に伴って、庶民でも分け隔てなく、その恩恵に与れるようになったわ。もちろん、資本主義社会においては、相応の対価の支払いは求められるけれど。いえ、支払っている対価が、それ相応と言えるかどうかは、本当のところは誰にも分からないのでしょうけれど」
「お前の言葉遣いは、いつも皮肉にしか聞こえないな。……いや、それは良いとしよう。文明についてとなると、他にも話すことがいくらでもあるぞ。医療分野では、薬物中毒の除去にも成功したのは、私が生まれて間もない頃だった覚えがある。そして、最近では脳の代替物になる医療用サイバーウェアの完成も現実味を帯びてきた、などと、インペリアルニュースが報道していた覚えがある。日々の進歩は、追いかけるのも難しいほどだ」
「興味深い話題を提供してくれるわね。けれど、文明についてはもう充分よ。オルフェウスの文明について、現象理学を知らない人々がいるとして、どういった形で理解できるかが問題だったのだから」
「いまいち、この質疑応答の意義を把握しかねるが……まあ、いいさ。ここまで付き合ったんだ。最後まで続けよう。次は文化だったか?」
「そうね。文明と内容が重複するでしょうけれど、構わないわ。もちろん、重複しない方が、より素晴らしいのだけれど。……っと、最初に警告しておくけれど、音楽の話ばかりするのはダメよ?」
「む、釘を刺されてしまったか。……そうだな。文化と一言で言っても、幅が広すぎる。スポーツの話をすればいいのか、小説やマンガの話をすればいいのか。音楽で良ければ、一日中でも語ることはできるのだが」
「そうね……例えば、スポーツで言えば、一口に野球やサッカーと言っても、色々な遊び方があるでしょう。貴方の好きな音楽にしてもそう。あるいは、ファッションで考えれば、もっと分かりやすいでしょうね。いえ、貴方にとって分かりやすいかどうかは、私はさほど問題にしていないのだけれど」
「……人気のあるスポーツは、やはり種族や競技フィールドによって細分化されてきた歴史があるな。まあ、種族がバラバラでは仕方がなかったのだろう。私は、仕事が忙しくなってから、野球を見るのをやめてしまったよ。昔は、飛行野球も見るぐらいには熱心だったのだが」
「多様な種族が生きているということは、きっとそれだけ多様な文化を育む土壌があるということなのよ。あまりに多様過ぎて、貴方のように追いかけるのに疲れてしまう人も現れるぐらいにはね。私の場合、ガーデニングには多少明るかったつもりだけれど、ユンブァンテュテュー王国ではサンゴ礁のガーデニングをしている方がいらっしゃると聞いた時には、やはり驚いたわね」
「そんな趣味もあるのか。世の中は広いな。確かに、音楽にしても、ジャンルは色々あるし、楽しみ方も人それぞれだが、種族の壁はどうにもならないことがある。低周波音によるクラシックコンサートに行ってみたものの、ほとんど何も聞こえないまま、途中から気分が悪くなっただけだったからな。今だったらサイフィーリングのお陰で、何かしらの音は聞こえるのかも知れないが……」
「……意外と物好きなのね。いえ、貴方は存外、話題も豊富だから、意外ということはないのかも知れないけれど」
「昔の話だよ。それで、他にも何か話した方がいいのか?」
「いいえ。充分でしょう。不充分であるとしても、それは仕方のことよ。さて、次が最後のテーマになるけれど、オルフェウスの社会を構成する重要なプレイヤーについて、説明をお願いするわ」
「ようやく終わりが見えてきたのか」
国家やその他の集団
「とは言え、最後の最後にまた大きな話題だな。この社会を構成するプレイヤー……となると、国家やギルドなどについて、個々に説明をしなければならないのか?」
「それでは話を拡げ過ぎてしまうでしょうね。まあ、私としてはいくらでも拡げてもらって構わないけれど。……最低限、どういった集団が社会的に重要な役割を担っているかを説明してくれれば、それで良いわよ。もちろん、多少なりとも具体例があった方が、説明としてはより素晴らしいわ」
「仕方ない。不足していたら指摘をしてくれ。まずは国家……その定義については、細かい説明は不要だろう。歴史あるデュ=キャメロン連合王国やファラザッハ帝国、ジルシュタンのような国々もあれば、私の祖国であるネオロンド共和国のように、建国からの日が浅い国もある。もっとも、ネオロンド共和国は、その前身となる国々の中には400年以上前に建国したアウフレヒト公国なども含まれているがね」
「ふふっ。キャメロン王国や秋津皇国からすれば、400年なんて浅い歴史ということになるのでしょうけれど」
「おっと、ついつい失念してしまうが、お前は知らないんだろうな。秋津皇国は滅んだよ」
「あら?」
「正確には、このままだと滅ぶことになる、ぐらいに留めておくべきだろうが、ね。2065年に四民革命という政変が起こって、皇族は処刑された。今では四民共和国という体制に変わっている。まあ、私からすれば、何故あのような乱暴な形での革命が必要だったかは図りかねるがね。未だに、あの国のことを秋津皇国と言ってしまうこともあるよ。それぐらい、革命が起こったのに、大きな変化があったようには見えない」
「そのようなことがあったのね。けれど、このままだと滅ぶことになる……ということは、まだ皇族がいなくなったわけではないのね。聞いた限りでは内戦ということでもないでしょう? 亡命でもしたということかしら?」
「ああ、ユタナに亡命政府を樹立させた……が、復権の見込みがあるかどうかは何とも言えん。……ここだけの話だが、私としては、あの亡命政府に協力できればと思うことはあるが」
「貴方が、祖国以外の特定の政府に肩入れするのは珍しいわね。亡命政府に優秀なジーニアスでもいるのかしら。……いえ、ここで詮索はしないわ。秋津皇国がそんな風になっているなら、他の国も面白いことになっていそうね。黄竜朝やユニオポリス連邦共和国、ユンブァンテュテュー王国あたりはどうなっているのかしら」
「EGGのネオプラズムであるお前に、その辺りの説明をするのは妙な気分だが……いや、これは今更だな。まず、黄竜朝は、四民革命とほぼ同時期に政体が2つに分裂してしまった。今は小康状態だが、内戦になっている。軍事力や経済力では北朝と呼ばれる政府が優勢だが、南朝は面積も広く、また圧倒的な人口を抱えている」
「その背景に、ネオプラズムがいるのではないかと貴方は考えているのね。いえ、まだ確証があるわけではなさそうね。貴方が帰った後の活躍を見られないのは残念だけれど」
「……どうにも調子が狂うな。まあいい。次に、ユニオポリスだが、あの国は少々……いや、かなり問題だな」
「へぇ。まあ、あの国は、元々そういう傾向があったから、秋津皇国や黄竜朝と比べると驚かないわね。そもそも、私が死んだ時ですら、まだユニオポリス第二帝国から政体が変わって、ほんの数年しか経っていなかったわね。その時から不安定だった記憶はあるわ。いえ、大戦以来、あの国が不安定でなかったことは、一時もあり得なかったのでしょうけれど」
「聡いお前のことだ。原因は、もう予想はできているんだろう? 完全にしてやられたよ。お前たちEGGが、あの国を完全に掌握してしまった」
「今となっては、私にとってどうでもいいことではあるけれど。いえ、関心がないという意味ではないのよ? ただ、私が死んでからも、貴方たちは苦労しているということね」
「苦労の原因の一端だったお前に言われるのは、さすがに腹立たしいぞ。……ちっ、まあいいさ。あとはユンブァンテュテュー王国だが、ここは比較的平和だな。とは言え、1年前に国王が暗殺されて、代替わりをしている」
「海の中ですからね。私が覚えている限りでは、EGGの手もそれほど伸びていなかったのではないかしら。もっとも、他のネオプラズムの手が及んでいる可能性は否定しないけれどね。あるいは、私がいなくなってから、誰かEGGのネオプラズムが海の底にも関心を拡げたか。……さて、そろそろ国家については充分ね。次は別の話題について話を進めてもらおうかしら」
「国家以外の主要なプレイヤー、となると、最初に挙げるべきはギルドだろうな。他に、企業や宗教団体も無視はできないが」
「そうね……オルフェウスへの理解を深める、という趣旨から言えば、ギルドだけで充分よ。もっとも、ギルドについて充分な話をすることは、決して簡単ではないのでしょうけれど」
「ギルドについて、ゼロから説明をしろと言われると、確かに難しいな。国家や企業などとは異なる、特定集団の互助組織といったところだが……身近なところでは、町内会や自警団、労働組合などが該当するか。巨大なギルドの場合、社会的な役割が大きくなり、時には国家と同等の権限と責任を負うことになる」
「貴方が率いるTNFは、私のようなネオプラズムに対抗する軍事ギルドね。いえ、正しくは、EGGと戦うために組織されたギルド、と言うべきかしら」
「その通りだ。人員規模は大きいとは言えないが、れっきとした統一連盟所属の国際ギルドの一角を担っている。おっと、統一連盟についても説明はしておこう。これは、オルフェウスのほぼ全ての国家、そして主要なギルドからなる国際機関だ。まあ、実態としては、各国の利害調整の場といったところだが、それでも国際的な安全保障には一定の寄与があると思う」
「オルフェウスにおいては、一般的な国家とは別に、より小規模な集落である里という単位でも、統一連盟に所属はできるわね。けれど、ギルドについては闇雲に所属することはできないわ」
「ギルドの統連所属は、そのギルドの規模や活動内容などを総合的に勘案した上で認められるからな。実際、TNFもいくつかのギルドの推薦がなければ、統連所属とはならなかっただろう。他はさておき、人員規模は明らかに見劣りするからな」
「そういった裏事情は、私の方では掴めていなかったことも多いから、興味深いわ。けれど、今はTNF以外のことも話してもらおうかしら」
「おっと、そうだな。統連に所属するギルドは、例えば平和を守る鉾の盟約やサーヴァント・アライアンス、スクールギルド、ディープブルークラブなどがある。名前だけではどういった組織かは分かりにくいだろうが、この辺りは構成員が100万人を上回る著名なギルドだ。サーヴァント・アライアンスは、確か1,000万人を超えていたな」
「妖精たちのギルドね。もっとも、TNFのように、国際的な活動をしていても構成員が10万人に満たないギルドもあるわ」
「いや、それがしばらく前に10万人は超えたんだよ」
「あら、そうだったの。それはおめでとう。もっとも、貴方の顔を見る限りでは、それで楽な戦いができているということではなさそうね」
「余計なお世話だ。……まあ、統連系のギルドについてはこんなところか。ただ、ギルドの話はこれで終わらせることができない」
「その通りね。統一連盟に所属していないギルドは、その大半が小規模な組織だけれど、中には全世界的な巨大ギルドもあるわ。あるいは、小さくとも無視できないギルドもあるでしょう。もっとも、今回は大規模なギルドの話だけで充分よ」
「非統連系の大規模ギルドと言えば、代表格が冒険者ギルドだな。私の祖国、ネオロンド共和国が誇る、世界最大級のギルドだ。独立性を重んじるために統連所属を拒否したわけだが……まあ、個人的には少しもったいない気はしている」
「そうかしら? 彼らの在り方は、冒険者という人々の気質に合っているわよ。現代の冒険者ギルドに、そうした気質に見合うだけの価値があるかどうかの方が、問題ではなくて?」
「さすがにそれは冒険者ギルドを、とりわけ七賢人を見くびりすぎだろう。ロジャー氏は言うに及ばず、エリザベータさんも、カラドリウス12世号も、立派な冒険者としての実績がある。それに、組織を纏める手腕は、正直なところ私では足元にも及ばない気がしているさ」
「あらあら。TNFの組織は、冒険者ギルドを参考にしていると聞いているけれど、それにしても随分と肩入れするのね。それとも、私が彼らを過小評価しているのかしら」
「いや、冒険者ギルドへの評価で議論までする気はないがね。後は……そうだな。ブリガンテの話はしておく必要がありそうだ」
「盗賊ギルドね。実のところ、世界最大の規模という意味では、冒険者ギルドではなく、ブリガンテこそその名に相応しいと言われているわね。まあ、内部分裂していなければ、正真正銘そうなのでしょうけれど」
「ギルドというのは、全てが合法的な組織ではないからな。ブリガンテに代表される非合法なギルドも全世界にあるが、お前の言う通り、規模だけで言えばブリガンテは別格だ。何せ、構成員の総数が3,000万人を優に超えると言われているからな。加えて、傘下の犯罪組織も数えきれないほど抱えているはずだ」
「そうね。統連所属のギルドだけではなく、冒険者ギルドやブリガンテといったギルドを一通り把握できたなら、ギルドについての知識は充分でしょう。もちろん、それで全てということではないのだけれど」
「ふぅ……ようやく、この長い質疑応答も終わりか」
「ええ、長い間、お疲れ様。……私は、少し名残惜しい気がしているけれど」
「お前がネオプラズムではなく、私たちと戦う理由を持っていなければ、このように話をする機会ももっと作れたのかもな。だが、現実はそうならなかったわけだ。多少は同情しなくもないが、残念ながら私はここに留まれない。ここが死後の世界であるならば、私が死んだ後にでも、また語らうこともできるだろう。それではな、セリーナ=アヴァロン」
「ええ、またいつか。……いえ、いつかなど、来るはずもないのだけれど」